宇都宮市の北西部、新里町にあるログハウス風の診療所「ひばりクリニック」(小児科、内科)。そしてそこに併設されている「NPO法人うりずん」は、2007年に人工呼吸器をつけた子どもを預かる取り組みから始まりました。
2008年からは、ひばりクリニック併設事業所「重症障がい児者レスパイトケア施設うりずん」として、日中のお預かり事業を始めました。
現在も宇都宮市だけなく、日光市、鹿沼市、塩谷町など近隣市町から、16家族に利用さています(2012年5月末現在)。
3時間以上続けて眠れずにする子育て、想像できますか。
重い障害や病気を抱え、医療に頼らなければ、命をつなぐことが難しい子どもがいます。
経管栄養、気管切開、人工呼吸器、など「医療的ケア」が必要になればなるほど、使える障害福祉のサービスは減っていきます。
加えて、その子どもを支えるご家族も、24時間365日重い介護負担を強いられます。
例えば、人工呼吸器をつけた子どもへの痰の吸引は、昼夜を問わず必要であることが多く、頻回になると、3時間以上寝続けたことがないという家族も少なくありません。
また呼吸器のアラームが鳴り響くたびに目を覚まします。そのため、当たり前とされる子育てや暮らしを手に入れることは困難です。子どもにとっても、遊びや学び、外出など当たり前のことをしようとするとき、大きなハードルがあります。
子どもと家族が当たり前の暮らしを手に入れるために。
そこで家族も子どもと家族の当り前の暮らしと、その人らしさを手に入れるためのお手伝いとして、医療的ケアを必要としている子どもの家族の休息(レスパイトケア)も必要と考え、その子どもの日中一時預かり(障害者自立支援法の日中一時支援に相当)をしています。
ただ預かるのではなく、事業所「うりずん」の中で、友達やスタッフと一緒に遊びながら必要なケアを受けていきます。その他、ホームヘルプサービスとして自宅での医療的ケアや身体介護と遊び、外出の支援なども行っています。
さらに、次の事業として相談支援事業や訪問看護、そして将来的に職員が増えて経営的にも体制が整えば泊まりの事業も目指したいと準備しています。
1人の子どもとの出会いと、同時多発テロ。そして・・・
NPO法人うりずんの理事長でもあり、ひばりクリニックの院長でもある髙橋昭彦さんにその始まりを聞いてみると、今からおよそ14年前、1人の子どもとの出会いがきっかけだと話してくれました。
当時、往診などの在宅医療が全く盛んでなかった頃に、在宅医療に力を入れていた栃木県内の病院で勤務医として働いていました。必要最低限の医療道具をかばんに入れて、往診する日々の中、1人の人工呼吸器をつけた子どもに出会いました。
在宅医を受けてほしいという打診でした。
その子どもの在宅医療について病院に諮ったところ、訪問診療に力を入れていた病院であっても、子どものケアの難しさや特殊性から受ける事はできないとの判断がされました。その子を何とかしてあげたいが、何にもできない想いと同時に、自分で開業すればそうした子どもをもっとケアできると考えるようになりました。
そう考えていながらも子どもと出会いながら何もできないことが心残りで時間は過ぎていきました。
それから5年後、アメリカの同時多発テロにニューヨークのマンハッタンで遭遇します。考えられないことが目の前で起こり続けた体験や、避難中に死を覚悟したことは今でも忘れることはできていません。
痛ましい事件から帰国後、自らの将来の大きな決断をします。開業をすると。そしてやるならば、学生の頃より住み慣れ、仲間のいるこの栃木で始めようと。
2001年小児科と内科の診療所「ひばりクリニック」を開設し、2008年から人工呼吸器をつけた子どもなど、重い障がいを持った子どもを預かる「重症障がい児者レスパイトケア施設うりずん」が始まりました。
そして2012年3月、特定非営利活動法人うりずんとなりました。
障がいは社会全体の課題。共に助け合える社会を作るために。
うりずんは、これからも、そうした子どもとその家族が、自分らしい生活を送るために必要で良質なサービス・仕組みをつくると取り組みを行い、重い障害をもつ子どものケアができる人材を育成していきます。そして、障がいのある人もない人も、共に助け合える社会の実現を目指し、活動しています。
目の前に必要としている子どもとその家族を最優先に大事にケアを行いながらも、医療的法律的な仕組みの転換へも働きかけ続けています。
そして、このうりずんがより必要している人にサービスと仕組みが届くように、そして今も必要としている人に提供し続けられますように、日々、常勤の看護師2名、介護士2名、非常勤介護士1名と精一杯取り組んでいます。
しかしながら、運営は4年連続赤字となっています。現在も市民や企業、行政など、様々なところからご支援を頂いていますが、まだまだ多くの方のご理解とご協力を必要としています。そして、「うりずん」のようなケアを受けたくても、受けられていない人が全国にいます。
こうした取り組みも始まったばかりです。障がいは子どもとその家族の問題ではなく、社会全体の課題です。この問題について社会全体で支え、理解してもらえるようになってほしいと思っています。
団体について
特定非営利活動法人うりずん
〒321-2118 栃木県宇都宮市新里町丙357-14
TEL 028-601-7733
FAX 028-665-8899
HP hibari-clinic.com
「うりずん」の活動を寄付で支援しませんか。
とちコミ運営委員のコメント
印象的だったのは、髙橋さん始め、職員さんたちは、ケアに加えて1人ひとりを認め合ったまなざしや関わり方をしていたことでした。それが、子どもたちに大事な尊厳を育んでいるように感じました。子どもとその家族を大切し、サービスを続けていくこと、必要としている人にサービスが届けていくことへの現場の強い想いとそれに共感した周囲の力合わさり、社会をよりよくしていくNPOの原点を感じた取材でした。